ヴィスバーデンのゼクト
開演一時間前の6時半に入り口が開いた。数人しか並んでいなかったので、オーケストラ席(一階席)が買えるかなと思ったら、4階(天井桟敷)以外はすべて売り切れ。「いくら?」と聞いたら「ヒィフティ」と聞こえたので、50マルク札を渡したら、たくさんおつりが戻った。なんと15.5マルク(約1000円)。
4階の最前列で、身を乗り出して見るための手摺がついている。
ローマの休日のヘップバーンのようなショート・ヘアーのリュー(Annette Luig)が声量、演技、美しさともに、良かった。トゥーランドット(Paolo Povaro)も目鼻立ちがハッキリしていて、三回目でやっと美人にめぐり逢えた感がある。カラフの有名な「誰も寝てはならぬ」(映画「キリング・フィールド」でも効果的に使われていた)は、スリーテナーのテーマ曲として、世界中の人がホセ・カレーラスの甘い声を聞いてしまっているので、可哀想である。でも、この歌を聴きに行ったのではなく、二幕や三幕最後の力強い合唱を聞きに行ったので、満足である。
休憩時間に、ヴィスバーデンの特産品であるゼクト(ドイツのドライなシャンペン)を注文した。フランクフルト・オペラで8マルクくらいなので、ここでは6かなと思っていたら、売店の女性は聞いたことのない単語を言っている。仕方なく、ポケットに入っていた小銭を全部見せると、勘定しながら取っていき、全部取った後「OK」と言われてしまった。大きな5マルク硬貨が二枚あったので、13マルクくらいはあったと思う。
それで、やっと手に入れたのが右のHenkellのゼクトである。フランクフルトはグラス売りだったが、ここでは、瓶売り。みんなカップルで一本注文している。グラス二杯以上入っている。さすがに美味い。
15マルクくらいするらしい。彼女は説明が面倒だからではなく、異国からの旅人なのでまけてくれたようだ。飲み干してグラスと瓶を返しに行ったら、「ダンケ」と言って30過ぎだが白くかわいい顔が微笑んでいた。こちらも小さな声で「ダンケ」と返した。
10時終演で、11時にホテルで待ち合わせをしていたので、10時38分の電車に乗りたいと思い、すぐに劇場を出るつもりだった。しかし、リューに拍手をしなければと思い、五分ほど拍手をした後、小走りにヴィスバーデンの街を歩いて駅に向かった。ブレザーにマフラーでは1.5kmの夜道は寒かった。
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